意見交換で介護現場を強くする。グループワークの方法

介護の現場は、時間に追われることも多く、立ち止まって考える余裕がないことが課題のひとつ。

そのため、日々の介護での問題点が解消できず、1人ひとりが悩みを抱えこんでしまいがちです。

スタッフ間で気づきを共有したり、日々のケアで起こった疑問や不安を伝え、ともに考える機会が少ないのが現状でしょう。

管理者は、声かけやコミュニケーションを図ることでスタッフの状態を知り、問題があれば改善していく必要があります。そして、職場全体で考え、解決していけるように促していく。

そのために有効な方法のひとつが「グループワーク」です。今回は、介護現場におけるグループワークの考え方と実践例をご紹介していきます。

グループワークとは?

グループワークと聞くと、企業が採用面接や社員研修などで用いるプログラムを思い浮かべる方も多いと思いますが、介護の現場でおこなわれるグループワークはどちらかと言えば、グループディスカッションに近いもの。

介護とは関係のないテーマで楽しく交流し、スタッフ同士のつながりを深める目的でおこなわれる場合もありますが、ここでは「事例検討グループワーク」を取り上げます。

事例検討グループワークは、現場で実際に起きた利用者様とのトラブルや困りごとを議題とし、現状の対応・対策が十分かどうか、メンバーが意見を出しあい、問題解決に向けて話し合います。

介護現場で起こったことはスタッフ全員にとって身近で、自分の身にも降りかかる可能性のある出来事。問題に直面している当事者の悩みをグループで分かち合い、新しい考え方や試していない方法に気付くことが期待できます。

こうした事例検討グループワークを重ねていくことで、情報や知見が蓄えられ、スタッフたちの柔軟で適切な対応力が育まれていきます。

グループワークの進め方

施設によってスタッフの数は違いますから、ひとグループを何名で構成するのかは適宜決めましょう。

ただし、なるべく仲良しグループが固まらないようなグループ分けが重要です。グループには、いつもは会話が少ない、年齢が離れている、介護職員だけでなく職種の違う看護師やケアマネジャー、送迎ドライバーさんなどにも加わってもらい、多様な視点を持ち寄り、幅広い意見を交わすことができる参加者で構成するようにしましょう。

グループワークのメンバー

  • 事例提出者
  • ファシリテーター(かじ取り役)
  • 書記
  • 参加者

事例提出者が議題をもちこみ、ファシリテーターが質問や意見が出やすいように促しながら進行していきます。

管理者は議論には参加しませんが、話し合う事例の選定やメンバーの役割を事前に決めておく必要があります。

タイムスケジュール

  • 役割の確認(5分)
  • 事例の説明(10分)
  • 質疑応答(15分)
  • 検討テーマの絞り込み・確認(10分)
  • 検討
    個人ワーク(5分)・グループワーク(30分)
  • まとめ(5分)
  • 感想と振り返り(10分)

90分の場合を想定したタイムスケジュールです。決められた時間は守り、ファシリテーターは時間配分に配慮しながら進行していきます。

参加者は、マナーとして誰もが理解できる言葉や表現ではっきりと話すこと。当然ですが、事例として取り上げる利用者様やご家族の状況については外部に漏らすことのないよう、介護従事者として守秘義務を守る必要があります。

話し合いでは、批判的な態度は取らず、共感的な表情や姿勢で発言すること。事例提出者や発言者の意見は否定せず、自分の意見を押しつけないように。

実行可能な支援方法を考え、事例提出者が「参加してよかった」と思えるような提案を心がけるようにしましょう。

グループワーク・ケーススタディ

ここでは、特別養護老人ホームでの実際の事例をもとにした「事例検討グループワーク」の様子をみていきましょう。

事例

「ほかの入居者の介助をしてしまう、アルツハイマー型認知症のAさん」

事例の説明

Aさんは、「先生、なにしましょう?」と事例提出者のあとをついて回ることがある。スタッフは、食事の準備や食堂の掃除を手伝ってもらったり、裁縫の得意なAさんに他の入居者の洋服の修繕をお願いしている。

日中はスタッフの数も多いため対応できるが、夜間など目が行き届かないときに勝手に他の入居者の介助をしてしまう。

たとえば、寝ている人を車椅子へ移乗させようとして転倒させてしまったり、食べられない物(トイレットペーパーなど)を人の口のなかに入れてしまったりする。

この事例では、Aさんの行動によって他の入居者の方にケガをさせる恐れがあります。

本人にとっては良かれと思いやっていることではあるが、スタッフが行動を制止させるような発言をすることで、Aさんを不安にさせてしまっていると事例提出者は感じていました。

今回のグループワークで、Aさんにはできることをしてもらいながら、入居者全体が楽しく安全な生活を送ってもらうための方法を考えたいと述べました。

質疑応答

参加メンバーからの質問でより詳しい状況がわかってきました。

  • 疾病や薬の副作用の影響はない
  • 夕食後に他の入居者の車椅子を押して行く際に「帰ろうね」「行こうね」と声をかけていることから、子どものこと家のことが心配であるのに家に帰れないという不安が他者に向けられるのではないか
  • ご家族の面会は2ヶ月に1回程度。来所時は、とても落ち着いて会話している
  • なにをするにも1人を好むが、スタッフとの関わりは嬉しいようだ
  • スタッフの手伝いをしているときには、とても良い表情で楽しそうだ
  • 起床から昼、夕食までは比較的落ち着いているが、夕食以降問題となる行動が起こる
  • 居室には物が少なく、殺風景である
  • 雑誌や写真集が好きで、風景や花などの写真を「キレイねぇ」としきりに言いながら笑顔を見せることが多い

検討テーマの絞り込み

Aさんの、誰かの役に立ちたいという気持ちから発した行動を、なるべく制限することなく、他の入居者への迷惑行為には歯止めをかけたい。そのためにはどうすれば良いのか。

検討

Aさんに心地よく過ごしてもらうために

「よりたくさんの家事手伝いをお願いする」「スタッフと雑誌やテレビを観る時間を設ける」「居室をAさんの好む物でしつらえ、落ち着ける空間にする」「ご家族に面会の機会を増やしてもらう」

他の入居者を守るために

「定期的に所在確認をおこない、トラブルを防ぐ」「問題行動が起きそうな場面でも、制止の言葉はかけずに見守り、なにかあったらスタッフが対処する」

といった案が検討にのぼりました。実行できそうな案は具体化させ、これから取り組むこととなりました。

そのうえで、認知症ケアのベテランスタッフや看護スタッフからは、「認知症の方を理解するには、細かな表情やしぐさに注意して、喜びの表情を浮かべたときは、どんな対応をしたか覚えておくこと。Aさんの出すサインを理解するように努め、日頃の観察にもとづいて接する必要がある」とのアドバイスが。

経験の浅いスタッフたちにとっては、貴重な意見を聞く機会となりました。

まとめ

検討で出された対応をすすめていくなかで、Aさんの発するサインを見逃さないようにし、落ち着いてもらえた対応、不安感を感じさせてしまった対応を、スタッフ全員で積み重ねて記録していき、Aさんに楽しく生活してもらえるような介助を目指す。

感想と振り返り

事例を提出したスタッフは、「ついついその場の対処に追われ、制止の言葉ばかりでAさんのサインを読み取ろうとしていなかった」とこれまでの対応を振り返り、「これからはもっともっとAさんから、気づきをいただけると思います」と述べ、これからのケアの方向性を発見できたようです。

他のメンバーも認知症の方へのケアにおいては悩みも多いようで、少し時間をオーバーしてしまうほど意見交換が続き、実りの多いグループワークとなりました。

意見を交わし、共有できる職場づくり

介護という職場に限らず、組織にはグループが形成されやすいものです。年齢や趣味など共通点が多いスタッフ同士での語らいは楽しいもの。

しかし、派閥とまでいかなくとも、仲良しグループの意識をサービスやケアの現場にまで持ちこんでしまっては、適切な介護ができない場合もあります。とくに介護職は幅広くさまざまな属性の人々が集まっている場所です。

普段の仕事では、関わることの少ないスタッフたちが、身近な仕事の悩みについて話し合い、解決策を探るグループワークは、あなたの管理する施設の人間関係を円滑にし、蓄えられたアイデアや知見はスタッフたちをたくましくしてくれます。

グループワークを存分に活用して、理想的な介護施設を目指しましょう。