介護の世界は女性が多く活躍する業界。そんなイメージを強くもつ方も多いでしょう。
実際、働く女性の割合を産業別に見た場合、「医療・福祉」分野での女性比率が圧倒的に高くなっています。同時に、「係長クラス以上」の女性割合がほぼ半数に達しているのは医療・福祉分野だけ。この数字は、産業全体での係長クラス以上の女性割合が13.1%と低い水準であることを考えると、きわめて高い比率※1です。
このデータには「介護事業」単独での数字の記載はありませんが、介護業界単体で調査すれば、より高い女性割合になるはずです。
介護業界にパートとして入りキャリアアップしながら管理職へ、また他業種での経験を活かして介護施設管理職となる女性は多くいます。女性活躍の必要性が叫ばれながらも、なかなか実現が叶わない日本において、介護業界は先進的な業界と言えます。
今回は、女性活躍をすすめている日本の現状と課題をご紹介。管理職へ転職しイキイキ働く先輩女性の声とともに、これから介護施設管理職にチャレンジしようとしている女性のあなたを応援するための情報です。
「ニイマル・ニイマル・サンマル」。この暗号のようなキャッチフレーズをご存じでしょうか?これは、「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度」にするという政府目標。
この目標が掲げられたのは、小泉政権時代の2003年。17年の月日が流れ、2016年には企業に対して、女性採用比率や女性管理職比率の目標数値を示した行動計画を策定させ、実行を促す「女性活躍推進法」が公布、施行されました。
しかし、帝国データバンクによる「女性登用に対する企業の意識調査(2020年)」※2では、女性管理職の割合を三割にまで引き上げることができた企業は7.5%に過ぎませんでした。
そもそも、女性が活躍できる社会はなぜ必要なのでしょうか。
もちろん公正な社会を実現するために男女差別があってはいけません。ただ、女性活躍推進を「女性のため」「社会正義実現のため」と認識し、そこにとどまっている方も多いのではないでしょうか。
じつは政府が女性活躍をすすめる大きな要因に、「経済的な要請」があります。深刻な少子化で人口減少に歯止めがかからない日本にあって、人材の有効活用は日本経済のこれからに不可欠なこと。女性にしっかりと働いてもらい、女性登用を含むダイバーシティ(人材の多様性)を実現しなければ、経済活動を支える労働力が不足するのです。
そして、女性に能力を存分に発揮してもらうことでグローバル競争を勝ち抜いていく。いまや、女性が活躍する社会の実現に、日本経済の浮沈がかかっているのです。
働く女性は増えているのに、管理職は増えない。そこには、どのような要因があるのでしょうか。
制度や法律は整備されつつあるのに、女性管理職が増えない原因をこれまで企業側は、「役職を希望しない」「役職者になる前に退職してしまう」といった理由をあげていました。確かに、女性自身の出世や昇進への意識が低かったことは事実でしょう。
多くの企業・業界では、若手女性社員が見本とできるような女性管理職がおらず、お手本とすべき存在がいません。また仮に、自分が管理職として上に立ったときに、社内の人間関係や派閥、力学に目配せする必要があり、その際束ねていかねばならない部下たちの多くは男性であるという現状があります。
こうした状況では、自らが管理職になるという具体的なイメージが描けず、マイナスの要素ばかりが目につきます。
ただ、介護の世界は違います。女性たちの活躍によって支えられている介護業界には、いきいきと働く女性管理職がたくさんいます。
ここでは、アパレル接客業で経験を積み、デイサービス施設管理者に40代後半で転職、「この年になってパソコンを覚えたんですよ!」と笑う管理職歴3年の、女性管理職の声をご紹介します。
「スタッフたちと同じ業務をしつつ、利用者様のご家族とのやり取りや利用者様が当施設利用にいたるまでのケアマネとの情報交換、スタッフの管理業務や教育をしています。就業当初は、わからないことばかりでしたが、事業長や地域マネージャーにサポートしてもらいました。なにより、子どもくらいの年齢のウチのスタッフから助けてもらいました。今では、調理やレクなどスタッフのサポートもできています」
自らが女性であること、転職組であることがプラスになった点も多かったと言います。
「前職のアパレル業界では、お客様への細かい気配りを大切にしていました。気配り上手になるには、まずは自分の身のまわり、ロッカーやデスク、事務所からキチンと整理して清潔にすること。普段のだらしなさや手抜きは、利用者様の前でもポロっと出てしまうんです。そんなところから指導したので、口うるさい管理者だったかも知れません。でも、みんなよく理解してくれて、利用者様にも丁寧な気配りができるスタッフたちに育ってくれました。
前任の管理者は男性だったのですが、このような指導はされなかったと聞きました。どちらかと言えば、やはり気配り、心配りに長けているのは女性の方なのかなと感じます。利用者様は性別に関係なく、女性に対応して欲しいという方も多いですし。
それから、女性はおしゃべりが好きでしょ。ときには話が横道にそれたままということもありますけど(笑)。利用者様だけでなく、ご家族ともケアマネともたくさん話して、情報交換する。そうすると、細かい状況も把握できますし、ケアの方向性も決めやすいです。むしろ管理者は女性の方が向いているのではないかと思いますね」
彼女は、女性が働きやすい介護業界だからこそ、キャリアアップを志して、施設のビジョンを実現できる管理職を目指して欲しいと言います。
「当施設には、副管理者という役職もあるのですが、そのポジションには男性スタッフに就いてもらっています。私が集めてきた情報をもとに、副管理者と話し合って困りごとを解決していく。とても良いバランスで仕事ができています。
女性同士が内向きに固まってしまうと、良くない方向に行ってしまうこともあるようですが、前向きに明るく仕事ができているときの女の集団って強いんです。若いスタッフたちには、私のあとを継いでね!って、いつも言っています。もちろん私もまだまだ頑張りますけどね(笑)」
かつては、「管理職になりたくない」という声も多かった女性たちの意識も、徐々に変わりつつあります。21世紀職業財団が行った調査※3では、「管理職になれるとしたらどう思いますか?」という問いに対して、昇進可能性があると思っている20~30代の女性総合職の約6割が「なりたい」「推薦されればなりたい」と答え、「なりたくない」「考えたことがない」との回答を上回りました。
また、一般職や事務職でも昇進意欲を持つ声が過半数を占めました。国や企業が女性活躍推進に取り組み、管理職への道が開かれていることを実感できれば、上を目指す女性はますます増えていくでしょう。
その先陣を切って、女性が活躍している介護業界も、より女性の管理職・管理者の力を必要としています。「管理職は男性の役割」と感じながら他業種で働いている女性のあなたも、介護業界ならば臆することはありません。自らの経験とスキルを武器に、女性管理職への扉を開いてみてください。
参照リンク
※1:全国産業別平均一覧表(平成30年度)
※2:女性登用に対する企業の意識調査(2020年)
※3:ダイバーシティ推進状況調査(2020年度)