利用者様の笑顔と言葉を引き出す、コミュニケーション術

介護施設管理者に求められる能力として、施設を利用される方、いわばお客様との適切な接し方があります。以前に当お役立ちコラムでも「利用者管理」というキーワードで、利用者様を最優先に施設運営を行う心得をお伝えしました。>介護施設管理者に必要なマネジメント力「利用者管理」

利用者様ファーストという姿勢は、介護施設が持つべき基本理念。管理者は率先してその理念を実現していかねばなりません。しかし、ときに管理者として事務仕事や行政との折衝などに追われ、利用者様については現場の介護スタッフ任せになってしまうことも。詳細なケアの実践については信頼できるスタッフに任せたとしても介護施設管理者は、利用者様やご家族に「施設の顔」として対応し、その姿を認識してもらう必要があります。

そこで今回は、ケアプランなどのテクニカルな面ではなく、普段の業務内で利用者様と良好な関係を築く方法、管理者の利用者様との適切な接し方をご紹介します。

管理者の一日

ここでは、介護付き有料老人ホーム施設長のある一日の仕事ぶりをご紹介します。施設の形態や時期などによって仕事内容は異なりますが、おおまかに管理者の仕事ぶりを知っていただけるはずです。

8:30出勤
8:45館内ラウンド
 ラウンドとは、施設内を見回り状況を確認すること。新型コロナウイルスの流行以降は感染症対策の観点から、消毒液の適正な配置などのチェック項目も加わっています。
9:00申し送り、日誌確認・事故報告書、機能訓練実施報告確認
 介護施設における申し送りとは、交代するスタッフへ必要事項を伝達すること。管理者は、ここで自身が不在時間帯の利用者様の状況を把握します。
9:30各種書類の事務処理・管理日報作成
9:45施設内カンファレンス(担当者会議など)
10:00見学者対応・採用面接・インテーク
 インテークとは、利用者様やご家族との初顔合わせのことです。施設に関する疑問を解消し、入居に際しての不安を取り除き、入居後の生活をイメージしてもらえるようにする為のもの。新規入居希望者や入職希望者への対応は管理者にとって重要な仕事です。
14:00各係、委員会会議
15:00館内ラウンド
17:00申し送り
18:00退勤

これ以外にも、スタッフからの要望や相談への応対、行政対応のための外出や広報活動など、管理者に課せられた業務は多岐にわたります。こうした限られた時間内でも積極的に利用者様とのコミュニケーションを図る必要があるのです。

新人キラーが発動したら

「新人キラー」とは、新人職員を試すために少し意地悪な態度をとったり、難題を投げかけてくる方のこと。施設利用歴が長い利用者様にときおり見られるようです。新たに管理者に就任したあなたもその洗礼を受けるかもしれません。

ただ、こうした利用者様はそれだけ施設になじみ、愛着を持って過ごしている方。あなたを本当に信頼に足る人物かどうか見極めている過程での行動です。新たに就任した、しかも介護経験のない管理者のあなたは試されているのです。しかし、新人キラーの方とのコミュニケーションの過程で、あるときにスッと受け入れてもらえたという声は多く聞かれます。真摯に接し続けることで利用者様の警戒心はほどけていきます。焦らずに誠実に向かい合うことが大切です。

高齢の方と話すコツ

ここからは、高齢の方とのコミュニケーションをスムーズにするヒントをお伝えしていきます。これまでの生活や仕事でご年配の方と接する機会が少なかった方は参考にしてみてください。

低めの声でゆっくりと話す

高齢になると電話の呼び出し音や体温計の音など、高い周波数の音がくぐもって聞こえるようになります。同時に、大きな音に対しては若年層と同じかそれ以上にうるさく感じるようになるのです。

普通の声量で尋ねても反応してくれないので、耳元に大声で呼びかけてみたら「そんなに大きな声を出さなくても聞こえます!」と怒られてしまうことも。

話すときには大声ではなく、低めの声でゆっくりハッキリ話すことを心がけましょう。また、高齢の方が聞き取りにくい音は、パ行・タ行・カ行・サ行と言われています。

たとえば、「今週の週末」の「しゅ」というのは聞き取りにくい音。「今週の土曜日」と言い換えると伝わりやすくなります。同様に「7時」は「しちじ」と言わず「ななじ」とするなど、ちょっとした工夫で会話はスムーズになります。

話をさえぎらない、否定しない

トラブルが起きるなど、明らかに不都合が起きる場合を除き、話したいように話してもらいましょう。

途中で意見したり、誤りを正したりするのはやめて、傾聴力を発揮して思うままに話をしてもらうことが大切です。しっかり話を聞いたうえで、正したいことがあればさらに会話を重ねていきましょう。

しっかり目線を合わせる

車いすや着席されている方とは目線の高さを合わせて話しましょう。上からのぞき込むような姿勢では良好なコミュケーションにはなりません。また、このとき相手の正面にまわり、自分の口の動きをしっかり見せるように話すと良いでしょう。

話しやすい話題を選ぶ

高齢の方とは共通の話題がないと思われがちですが、出身地や近親者のこと、職歴、趣味など会話のきっかけになるような話題はたくさんあります。テレビ番組や芸能人の話題などに詳しい方も。利用者様は、あなたの人生の先輩です。そのお話から学ぶことも多いはずです。

非言語コミュニケーションを用いる

ときに言葉よりも人間性があらわれるのが、話しを聞く「態度」です。視線や仕草といった言葉以外の態度。一対一の対話においては、そのメッセージの65%は非言語コミュニケーションによって伝わるとされています。

清潔な身だしなみや柔和な表情で好感を抱いてもらい、うなずきや笑顔で共感を示すこと。腕組みや頬杖、貧乏ゆすりなどネガティブに受け取られかねないクセを持っている人は気を付けてください。

ご高齢の方から自然な笑顔を引き出せるような人は、先ほどのポイントを踏まえて接しています。介護歴の長いベテランスタッフも利用者様と話すコツを心得ているので、アドバイスをもらうのも良いでしょう。

管理者という立場は相手を知らず知らずに緊張させているものです。あなたの方から積極的に話しかけ、「話を聞いてくれる管理者」であることを示してください。この人なら介護スタッフには言えない不安や困りごとを聞いてくれる、と認識してもらえば、施設の改善ポイントの発見や解決にもつなげられます。

管理から支援へ。笑顔のゆくえ

身体的な介護はもちろん大切。しかし、日常の何気ない会話が利用者様の精神的支援にもなっています。挨拶や他愛のない会話からはじまるコミュニケーションで心豊かに過ごしてもらいましょう。

そして、「笑顔」という非言語コミュニケーションも大切。すぐれたリーダーはどんなときも笑顔を絶やしません。自らの笑顔が話しやすい雰囲気をつくり、仕事場の雰囲気を良くし、結果的に仕事ができる環境を生むことを知っているからです。まずはあなたの笑顔からはじめて、利用者様にもいつも笑って過ごしてもらいましょう。

利用者様の第二のわが家に施設をするためには、ケアプランや介護方針をしっかり見定める「管理」の視点と、日常的なコミュニケーションや笑顔の力で不安を取り除き、不満をすくい上げる「生活の支援」を両立させたいもの。

理想と現実は違う、といった声が聞こえてくる介護施設のあり方ですが、あなたが率先して利用者様の家族となれるような施設づくりの理想をかかげ、管理者への道を選択してみてください。